第五章 小児の推拿手法


第二節 常用手法とツボ


三、腰背部の手法



1.拿肩井
 (肩井把握揉捏)
 〔位置〕 大椎と肩峰を結んだ線の中点、肩の筋肉部。
 〔手法〕 母指示指中指の三指で肩の筋肉を提拿(持ち上げて把握揉捏)する手法を、拿肩井(肩井把握揉捏)と言います。;指端でそのツボを按(圧迫)する手法を、按肩井(肩井圧迫)と言います。把握揉捏は3~5回、圧迫揉捏は30回。
 〔主治〕 感冒、驚厥(びっくりして気を失う)、上肢活動制限。
 〔臨床応用〕 拿按肩井(肩井把握揉捏圧迫)は宣通気血(気血の流れをよくする)、発汗解表(発汗してかぜ症状をとる)の効能があります。臨床では終わり(仕上げの)手法あるい背部の施術を開始する手法として多用します。



2.揉大椎
 (大椎揉捏)
 〔位置〕 第七頚椎と第一胸椎棘突起の間。
 〔手法〕 中指あるいは示指あるいは母指で揉捏20~30回。
 〔主治〕 発熱、項強(うなじの強ばり)、咳嗽。
 〔臨床応用〕 大椎を揉捏すると清熱(解熱)解表(解熱)作用がありますから、主に外感発熱(かぜの発熱)、項強(うなじの強ばり)に用います。この他、母指示指あるいは屈曲した示指中指をちょっと清水につけて、ツボの上でねじって皮膚を軽く充血させますと、百日咳に対して一定の治療効果があります。


3.揉風門
 (風門揉捏)
 〔位置〕 第2、3胸椎棘突起間の傍らを開くこと1.5寸。
 〔手法〕 示指中指二指で左右両穴をおさえて揉捏法20~30回。
 〔主治〕 感冒、咳嗽、気喘(ぜんそく・息切れ)。
 〔臨床応用〕 多く清肺経揉肺兪推揉膻中と共に用います。



4.揉肺兪
 (肺兪揉捏)
 〔位置〕 第三胸椎棘突起下を傍らに開くこと1.5寸。
 〔手法〕 示指中指の二指あるいは両手の母指で左右の肺兪穴を揉捏50~100回。
 〔主治〕 久咳(長期にわたる咳)、喘咳、胸悶、胸痛。
 〔臨床応用〕 肺兪揉捏は呼吸系統の疾病を主治します。肺虚咳嗽(弱々しい咳)に対してはさらに有効で、もし久咳(長期にわたる咳)で治らない場合には、手指に少しばかり塩粉をつけて揉捏すれば、治療効果を加強できます。



5.分推肩胛骨
 (肩甲間部軽擦)
 〔位置〕 両肩甲骨脊柱縁。
 〔手法〕 両母指で左右の肩甲骨脊柱縁に沿って上から下へと往復軽擦100~300回。
 〔主治〕 咳嗽、痰鳴、胸痛、発熱.



6.揉脾兪
 (脾兪揉捏)
 〔位置〕 第十一胸椎棘突起下を傍らに開くこと1.5寸。
 〔手法〕 示指中指の二指あるいは両手の母指で左右の脾兪を揉捏、50~100回。
 〔主治〕 嘔吐、腹瀉(下痢)、疳積(小児の貧血、小児神経症?)、食欲不振、慢驚風(慢性のひきつけ)、四肢乏力(身体に力が入らない)、黄胆、水腫(むくみ)。
 〔臨床応用〕 常に脾胃虚弱(胃腸が弱い)、乳食内傷(離乳食の食あたり)、消化不良など、多くは推脾経按揉足三里と共に用います。



7.揉腎兪
 (腎兪揉捏)
 〔位置〕 第二腰椎棘突起下を傍らに開くこと1.5寸。
 〔手法〕 揉脾兪に同じです。
 〔主治〕 腹瀉(下痢)、便秘、少腹痛(下腹部痛)、下肢痿軟乏カ(下肢に力が入らない)。
 〔臨床応用〕 腎虚腹瀉(下痢)、あるいは陰虚便秘、あるいは下肢不随などには常に用いますが、多くは揉上馬補脾経推三関と共に用います。



 8.按揉腰兪
 (腰眼圧迫揉捏)
 〔位置〕 第三、四腰椎棘突間、傍らに開くこと3寸の部、奇穴“腰眼”の腰眼に相当します。
 〔手法〕 両母指で左右の腰兪(腰眼)を按揉(圧迫揉捏)両穴20~30回。
 〔主治〕 腰痛、泄瀉(下痢)、下肢不随。



9.推脊
 (脊柱軽擦)
 〔位置〕 大椎から長強に至棘突起線上。
 〔手法〕 示指中指二指の指腹で、上から下へと真っすぐに軽擦、反復100~300回。
 〔主治〕 発熱、驚風(ひきつけ)、夜啼、嘔吐。
 〔臨床応用〕 脊柱軽擦は清熱(解熱)効果が割りに良いので、常に清河水退六腑揉湧泉と共に用います。



10.捏脊
(膀胱経結合織マッサージ)
 〔位置〕 第一胸椎から第五仙椎までの脊柱の両傍、大杼から秩辺に至る二筋の膀胱経に相当します。
 〔手法〕 正手捏法あるいは反手捏法、あるいは用“捏三提一”法で、上から下へと反復操作3~5遍。捏脊する前に脊柱の両傍を1~2分間あん摩して、筋肉を緩めておきます。
 〔主治〕 腹瀉(下痢)、疳積(小児の貧血、小児神経症?)、便秘、夜啼、体質虚弱。
 〔臨床応用〕 背柱のツボは督脉経に所属しますが、督脉は陽気を統率し、真元を統摂します。捏脊法は陰陽を調節し、気血を整え、臓腑を調和し、経絡を通じ、元気を培い、心身を強健にする効能がありますから、これは小児の保健の主要な手法の一です。臨床では多くと補脾経補腎経推三関摩腹按揉足三里と共に用い、先天的あるいは後天的な弱さから来る慢性的な疾病を治療して均しく一定の効果があります。本法はまた足太陽膀胱経に及びますが、それぞれの病情に基づいて相応する膀胱経の兪穴(ツボ)をつまんで持ち上げたりあるいは圧迫揉捏すれば治療効果を増強できます。



11.推七節骨
 (下方七椎軽擦)
 〔位置〕 第四腰椎から仙骨と尾骨の連結部の棘突起を結ぶ線上。
 〔手法〕 母指の指腹の橈側面あるいは示指中指の指腹で、下から上へと推す(軽擦する)手法を上推七節骨と言い、上から下へと推す(軽擦する)手法を下推七節骨と言います。各100~300回。
 〔主治〕 泄瀉(下痢)、便秘、脱肛。
 〔臨床応用〕 上推七節骨は温陽止瀉(温めて下痢を止める)の効能がありますから、多く虚寒腹瀉(冷えによる下痢)、久痢(長引く下痢)などの症に用います。もし按揉百会揉丹田と共に用いますと、気虚下陥的脱肛(気の働きが弱って起こる脱肛)、遺尿症(夜尿症)を治療できます。
 下推七節骨は瀉熱通便(熱を取って便通を改善する)効能がありますから、多く腸熱便秘、あるいは痢疾(伝染性下痢)などに用います。



12.揉亀尾
 (尾骨揉捏)
 〔位置〕 仙尾連結隆起部の下縁。
 〔手法〕 母指あるいは中指で揉捏100~300回。
 〔主治〕 泄瀉(下痢)、便秘、脱肛、遺尿(夜尿)。
 〔臨床応用〕 亀尾穴の穴性は平和で、下痢を止め便通をよくする効能があります。多くは揉臍摩腹推七節骨と共に用い、腹瀉(下痢)、便秘などの症を治療します。


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