第三章 関節運動類手法


第七節 救急時の胸郭運動法


二、心臓按摩法


 患者は硬い床の上に仰臥させますが、もし患者がもともと軟らかいところに寝ている場合には、敷き布団の下に木の板をおくか、或いは患者を地上に横たえて、体の下に敷布団を敷き、患者の頭は10°前後下げます。術者は患者の右側に位置して、両手を重ねて掌根部で患者の胸骨の正中の下から2分の1のところをおさえます(小児の場合は片手の掌根で按圧します)。肘関節は真っ直ぐにして、術者の上半身の体重と肩と腕の力によって、脊柱の方向に向かって垂直にリズミカルに圧迫します。圧迫の力は適度にして、胸骨が3〜4センチ下がる程度にします(図164)。圧迫したあとは、腕を持ち上げて胸骨の位置を元に戻させて、胸腔が十分に拡張するようにし、心臓の自然の収縮に代りに、血液循環を維持する目的を果たします。頻度は60〜80回/分とします、小児は100回/分です。
 原理:心臓的の前面は胸骨で、後面は胸椎です。その両方によって縦隔と心包膜は固定されています。ですから、胸骨の下端を圧迫すれば心臓を圧縮するのに有効で、心臓の袋の中の血液を排出するのです。圧力を除くと、胸骨は元の位置を回復し、そして胸腔は陰圧になり吸引作用を起こし、血液の回流が増加し、心臓は再び拡張して溢れてきます。
 注意点:手根部だけを用いて胸骨の下半分に圧を加えます、手掌全体でおすのはよくないです。圧迫と弛緩の時間は大体均しくして、帰ってくる血液量と出て行く血液量をともに保証します。圧を加える方向は脊柱に向けて、偏りのないようにします。そうしないと肋骨の骨折を起しやすいです。心臓を圧迫するときには、同時に人工呼吸を行わなくてはなりません。両者の比率は4:1とします、小児の場合は3:1です。圧迫が無効の場合には、直ちに心臓内注射三聯針を行うか或いはその他の強心薬を注射すべきです。
 もしもあん摩が有効ならば、以下のような現象が観察されます。口唇や顔色があかみと潤いを帯びてきます、頚動脉、大腿動脈など大きな動脉の拍動を触れるようになります、或いは血圧を計れるようになります。すでに散大してしまっていた瞳孔は縮小し始めます。
 按摩が有効か否かはあん摩の力量、心筋の張力と血液の容量などの要因によって決まってきます。もし、好い効果が得られない場合には、以上の要因について検査を行い、その改善を図るべきです。
 禁忌症:広範囲の肋骨骨折、心筋梗塞、心臓の外傷、張力性気胸など。このほか、重い腸閉塞或いは胃にたくさん内容物がある病人については、按摩は胃腸の内容物を逆流させて、気道の阻塞を引き起こしますので、あらかじめ注意が必要です。

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