第二章 基本手法


第二節 揉動類手法 (揉捏類の手法)


 この類の手法の共通の特徴は、すべて皮膚に密着して操作し、皮膚の摩擦ははっきりせず、手法の力学的な回転運動あるいは揺動(揺り動かす)を通じて、主に筋肉に対してリズミカルな振動を生むものです。この手法には深部に透る力があり、剛柔相い兼ね、疏通経絡(経絡の通りをよくする)、行気活血(気をめぐらし血をきれいにする)、解痙止痛(痙攣を鎮めて止痛する)の作用があります。この類の手法には滾法、一指禅法、揉法、弾撥法、搓法を包括します。



一、滾法
 手背の尺側面を着力点(作用点)とし、前腕を揺り動かすことによって手首の屈曲を誘導し、治療点に密着している手背にリズミカルな揉動(揉む動き)を起こさせる手法で、滾(コン)法と言います。
 1.手勢(手の姿勢)(図5-1) 手背の第四、五掌指関節(中手指節関節)及びその掌骨(中手骨)の末端を着力点(作用点)とし、母指は自然に伸ばし、示指は微かに屈し、その他の三指は自然に屈曲させます。手の背側を前方に向けて最大限に転がしたときには、掌心(手のひら)は上を向いており、手首の掌屈は約45°(前腕橈側の延長線と橈骨茎突から示指の橈側縁に連なる線に挟まれてできる角度が30-50°)で、その他の手勢(手の姿勢)は変わりません。手の掌側を手前に向けて最大限に転がしたときには、掌心(手のひら)は内を向いています、従って小魚際(小指球)面が附着点となり、手首と前腕は中立位を保持し、その他手勢(手の姿勢)はやはり不変です。
 2.臂勢(腕の姿勢) 肩は落として肘は垂らし、上肢の筋肉は完全にリラックスさせます。上腕と腋下がなす角(腋角)は、20-60°となります。前腕と上腕がなす角(肘角)は、100-170°となります(図5-1)。前腕と治療部位の平面とがなす角(腕角)は斜形滾(斜め転がし)は40-60°になり、魚際滾(小指球転がし≒横手)は10-20°になり、小拳滾(小拳転がし≒車手)は70-85°になります(図5-2)。前腕が往復する振動幅は(前腕橈側の中点を基準として)10-15センチになります。
 3 身勢(身体の姿勢)(図5-1) 両足を肩幅に開いて“八”字の形にし、操作している手と同じ側の足を前に出し、身体は微かに前傾します。
 操作する時、毎回の往復の転がし運動しているときに、手背の着力点(作用点)は皮膚に密着していなくてはなりません、往復するときに滑って摩擦してはいけないのです。頻度は120-160回/分としますが、滾動(転がし運動)の一往復を一回と数えます。
 滾法は手背の着力点(作用点)の位置の違いにもとづいて、三種の操作形式に分けることができます(図5-2)。上記で紹介したのは一般的な技法で、斜形滾(斜め転がし)といいますが、人体の筋肉の厚薄に関わらず一般の部位に適用しますが、滾法中では平補平瀉法に属します。二つ目は小魚際(小指球)の部位を着力点(作用点)とするので、魚際滾(小指球転がし)といいますが、関節あるいは骨格の浅い部分に適用し、滾法中では補法に属します。三つ目は第二、三、四、五近位指間関節の背面を着力点(作用点)としますから、操作する時には半握拳(半分握った拳)状になるので、小拳滾(半拳転がし)といいますが、筋肉の豊満なところ及び筋肉の間隙、骨の間隙、骨格の陥凹したところ適用しますが、この法は重く用いれば瀉となるし、軽く用いれば補となります。
 滾法の練習し初めは斜形滾(斜め転がし)を主として、先ず砂袋あるいは自分の大腿部で練習します、一般に10日前後練習すれば、基本を掌握して姿勢の要領も分かってきます。
 滾法は丁季峰医師が創立したもので、これは推拿で最も常用する手法の一つです。これの優れた点は作用面積が大きく、深透性が強く、剛くも柔くもできるし、補も瀉もできるし、適応範囲が広く、これは病人にも医師にも大いに受け入れられる歓迎すべき優良な手法です。



二、一指禅法(≒挫き手)
 母指端を着力点(作用点)として、前腕を揺り動かして母指の中手指節関節と指節間関節の屈曲を誘導し、そしてこの不断の屈曲による振動力を治療点に作用させる手法で一指禅法といいます。
 1.手勢(手の姿勢)(図6-1) 母指端を着力点(作用点)として、残りの四指は自然に屈曲させ、その指背は治療部位に浮してつけるかあるいはつけないで、つまり手は空拳状になり、手首は掌屈45°、母指と着力点(作用点)の平面とは垂直をなします。尺側に向かって最大限度に揺れたときには、母指の指節間関節は背屈状になり、着力点(作用点)は母指の指紋面となり、手首の端はそのままです。橈側に向かって最大限に揺れたときには、母指の指節間関節は掌屈状になっていますが、指背は治療部位には触れないようにし、附着点は母指の指尖部です、手首はやはりそのままです。
 2 臂勢(腕の姿勢)と身勢(身体の姿勢)(図6-1) 滾法と基本的には同じです。ただし、滾法の揺らす動きは前腕によって旋転させるのが主ですが、この法は前腕によって左右に揺らす動きが主です。
 操作時の、一回左右に揺り動かすのを一回と数えます。ただし母指の着力点(作用点)は皮膚の上を滑らさないように密着させて、圧力は適当にして、手首は始終平行移動させ、頻度は120-160回/分。200回/分を超えるものは纏(テン)法といいます。
  一指禅法はその指端の着力点(作用点)の違いにより、三種に分けることができます(図6-2);母指の指紋面を着力点(作用点)とするものを、羅紋禅といいます(訳注:羅紋=指紋);母指端を着力点(作用点)とするものを者、指峰禅といいます;母指端の橈側面を着力点(作用点)とするものを、偏峰禅といいます。
 一指禅法の操作形式の違いにより、三種に分けることができます;擺動形式を主とするものは擺禅といいます(訳注:擺(ハイ)=左右に揺り動かす);旋転形式を主とするものを旋禅といいます;四指を伸ばして開くものを撒手禅といいます。
 一指弾法の練習し初めは擺動式羅紋禅(指紋面を作用点として左右に揺り動かす)を主とします(図6-1)、先ず砂袋あるいは自分の大腿の上で練習しますが、この法は難度が比較的に大きいので、割りに長時間練習しなくてはなりません、正確な姿勢や要領を把握して、柔軟、深遠、持久、有力など必要なことを身につけます。
 一指禅法の着力面(作用面)は割りに小さいので、全身のツボに適用しますが、とりわけ骨の間隙、筋肉の間隙と骨格の陥凹部に適用します。臨床では頭面、胸腹、腰仙骨部と四肢の関節部の治療多く用います。この法と滾法はともに、推拿の常用手法の一で、その優れた点は柔軟でありながら深く浸透すること、剛柔兼ね備えていること、姿勢がゆったりしていること、応用面が広いことであり、最も優良な基本手法の一つです。



三、揉 法(揉捏法)
 治療点に密着して旋転したりあるいは往復運動をして操作する手法はすべて揉法といいます。滾法と一指禅法は揉法の範疇に属しますが、その姿勢と技巧が独特なので、それぞれ立て一法とします。揉法を分けて掌揉(手掌揉捏)、指揉(指腹揉捏)、拳揉(拳揉捏)、肘揉(肘頭揉捏)と前腕揉(前腕揉捏)の五種とします。
 掌揉(手掌揉捏)と指揉(指腹揉捏)は比較的に柔らかく緩和で、頻度は100-140回/分とし、全身各部に適用しますが、これは揉法の中では補法になります。
 掌揉
(手掌揉捏)には平掌(手掌)、掌根(手根)、大魚際(母指球)、小魚際(小指球)を着力点(作用点)とする別があります(図7-1)。

 指揉(指腹揉捏)には母指、四指と五指を着力点(作用点)とする別があります(図7-2)。母指揉法(母指揉捏)の中では、わりに常用するものが二種ありますが、これらは一指禅法に匹敵するほどよいものです。一種は母指先動旋揉法(母指回旋揉捏法)(図7-3)です。(先に母指を動かし、続いて手くびをまわして広範囲に揉む)。即ち母指の指紋面を着力点(作用点)として、前腕転動を用いて母指が円形に揉動するように誘導します、ただし前腕及び手首が母指の揉動を誘導する前に、母指は先ず主に前方に向けて円周の四分の一ほどを滑動しておく必要があります、残りの四分の三の円周は前腕及び手首が母指を誘導することによって完成します。この種の揉法は作用力は柔和で深く浸透し、振動感は強く、弾力性と伝導性を豊かに備えています。


 別の一種は“八”字屈腕揉法(図7-4)(≒二指揉捏法)です。即ち母指と示指を分け開げて“八”字の形にして、母指の指紋面の着力(作用)を主とし、示指の橈側面の着力(作用)を輔として、操作するときには前腕の推したり引っ張ったりする動作によって手首の屈伸を誘導して、治療点についている母指と示指にリズミカルな揉動をおこさせます。この法は手首を支点としているので、テコの長さは短くも長くもないので、操作の力は節約できるし、姿勢はゆったりしているし、作用力は柔和に深く透ります。


 拳揉(拳揉捏)と肘揉(肘頭揉捏)(図7-5)、刺激性が強く、作用力は大くて深く透る。これは揉法の中の瀉法で、筋肉の豊満なところと比較的深い位置にある病痛部位に適用します。




 前腕揉(前腕揉捏)(図7-6) 即ち前腕尺側面を着力点(作用点)して、上腕の転動あるいは揺動(揺り動かす)によって前腕の操作を誘導します。この法は接触面が大きく、刺激強度は小さく、腰背と四肢の面積の大きい治療部位に適用します。
 揉法は理気止痛(気をととのえて止痛する)、活血散瘀(オ)(血をきれいにして滞っているものを散らす)の功用があります。



四、弾撥法
  およそ筋肉あるいは腱に対する手法でリズミカルにはじくものは弾撥法といいます。この手法の反復してはじく方向と筋肉あるいは腱の走向とは垂直をなします(図8)。はじく幅は大きくない方がよく、筋肉あるいは腱にリズミカルな振動が生まれればそれでいいのです。頻度は80-200回/分。常用手法には指弾撥と拳弾撥があります。
 指弾撥は体表の小さな筋肉あるいは腱に適用します、母指で弾撥するものは、四指で固定し、四指で弾撥するものは、母指で固定します。
 拳弾撥は位置が深くしかも大きな筋肉や腱に適用します。伏拳弾撥は、近位指節間関節の背面を着力点(作用点)とし、仰拳弾撥は、中手指節関節の背面を着力点(作用点)とします。いずれも別の一手を操作する手にそえて、協力して力を運用します。これらとは別に、もし拳の弾撥力量が不足する時には、肘弾撥に変えて用いてもよいです。
 弾撥法は解痙鎮痛(痙攣を解いて痛みを鎮める)、鬆解筋肉粘連(筋肉がくっついているのを解きほぐす)の作用があります。



五、搓 法(錐もみ状揉捏)
 両手で肢体の相い対する治療点を合せて按え、交替に揉動する手法を搓法といいます(図9)。この手法は治療点に密着させていますから、皮膚に対する摩擦力は小さく、主要な作用は筋肉に対するもので、筋肉をリズミカルに振動させるものです。もし操作時に皮膚に密着していない場合は、則ち筋肉に対する作用力は小さくそして皮膚に対する摩擦力は大きいので、この法は両手擦法(両手軽擦法)というべきもので、搓法(錐もみ状揉捏)ではありません。搓法(錐もみ状揉捏)操作時には両手を上下に往復移動してもいいが、揉動するときには必ず密着していなくてはなりません。
 搓法(錐もみ状揉捏)は筋肉を緩め、気血を調和し、精神を奮い立たせるなどの作用があります。


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